日々の泡

東京の下町に住む会社員のブログ。家族とかクルマとか色々。

映画とクルマ

レキシントンの幽霊」という村上春樹の短編集がある。ずいぶん前に買ったその本をどこで見つけたのか、(僕が洗車中の助手席で)妻が読んでいた。


その短編集には「トニー滝谷」という作品が収録されていて、10年くらい前に市川準監督で映画にもなった。

主演がイッセー尾形宮沢りえ、音楽が坂本龍一と、なかなか魅力的なキャスティングにひかれて映画館まで観に行ったことを思い出す。

西島秀俊の淡々とした原作ままの語りと、ユニークな演出による非現実感がやけに村上春樹の文体とマッチしていて、とても印象的な映画だった。

 

なんだか今日はあの映画の雰囲気に無性に浸りたくなり、「トニー滝谷」のDVDを借りてきた。

 

あらすじはほとんど忘れてしまっていたけど、やはり良くできた映画だった。きっと宮沢りえ坂本龍一に費やしたコストを補うべく採られた演劇的な場面展開が、むしろこの作品の独特の空気感を醸し出しているのだろう。
10年前とはまた異なる印象を受けながら観ていると、主人公(イッセー尾形)の妻である宮沢りえが洗車をするシーンに。

 

なんと、そこに出てきたのはルノー5。

f:id:jamboree18:20180905222251j:plain

妻によると、小説では「ブルーのルノー・サンク」と書かれているとのこと。

車やバイクなどのメカニック専門のイラストレーターで、お金はあるけど華美なものは好まない主人公にしっくりくるクルマだと思う。

 

映画では主役級に目立つ役割を果たすクルマもあるけれど、こんな風に登場人物の”人となり”が伝わってくる脇役としてのアジを感じた。

 

そう言えば「マーサの幸せレシピ」にはシトロエンのXMが出てきたっけ。

偏屈なドイツ人シェフのクルマ。

f:id:jamboree18:20180905222339j:plain

 

グランブルー」のFIAT 500。

ライバルのジャン・レノのクルマ。なんかコミカル。

f:id:jamboree18:20180905222352j:plain

 

そして「人生はビギナーズ」のW123。

やれた感じが良い。

f:id:jamboree18:20180827170519j:plain

 

トニー滝谷」。

70分間の短い映画。あっと言う間に終わってしまった。


そして、ルノー5が映るのは僅か数秒のことだった。

 

黄色いルノー

かれこれ2年くらい、僕はルノーのルーテシアという車に乗っている。

正確にはルーテシア・ルノースポールというグレード(ついでに加えると更にトロフィーという称号が与えられている)。

通称「ルーテシアR.S.」。

 

アルファ156の維持が難しくなってきた頃、それまでドイツ車、イタリア車を乗り継いできたので、「次はフランス車かなあ」と何となく思っていた。

 

そんな時、街でたまたま見かけた黄色のメガーヌR.S.に僕は心を奪われてしまった。

clicccar.com

 

それまでルノーと言えば、メガーヌ2のクリフカットとか、カングーとか、その程度のことしか知らなかった。

ルノー・スポーツじゃなくて「スポール」と読むとか、ニュルブルクリンクでFF最速とか、後から知ることとなった。例のFさんは「メガーヌR.S.かあ。ポルシェと追いかけっこできるね。」なんて 物騒なことを言う。

しかし何より僕にとっては、流れるような美しいデザインはもちろん、あの目の眩むような黄色がとても印象的で、特別なものに思えた。

 

その黄色が「ジョンシリウス(Jaune Sirius)」と呼ばれるのを知ったのは、ルーテシアのカタログを見たときだった。フランス語で「ジョン(ジョーン、と発音するらしい)」は黄色。「シリウスのように輝く黄色」という意味だろうか。

f:id:jamboree18:20180904124929j:plain

*光の加減によって文字通り色々な色に見える

 

正直なところ、当初はメガーヌが欲しかった。だけど、ジョンシリウスが設定されているルノー・スポール(R.S)は「2ドア≠家族向き」、「でか過ぎる=駐車場に収まらない」ことで選択肢から外さざるを得なかった。ま、予算的にも無理だったんだけど。

それに対してルーテシアはメガーヌ同様にデザインが好みだったことに加え、「4ドア」、「ちょうどいい大きさ」ということで、次期愛車の最有力候補となった。

 

しかし、僕がルーテシアを購入した2016年当時、ジョンシリウスはR.S.の上級グレードに当たるトロフィーにのみ設定された色だった。そもそも街乗りしかしない僕にとって、スペックも予算も”オーバー”だった。

購入はかなりためらわれたのだけど、意外にも妻の後押しがあった。

 

「15年乗るなら買ってもいいよ」

 

この一言で僕は憧れの黄色いルノーに乗ることになった。

 

W123と僕 後編

W123は、僕に車の「いろは」を教えてくれた。
大きなトラブルは無かったけれど、ちょっとした箇所を直したり、消耗品を替えたりした。

手を入れる度に、まるで別の車に生まれ変わったようにシャキッとした。細々した問題はあったけど、一つ一つが車の基本みたいなことで、定期交換やメンテが必要な消耗品や機関について知る良い機会だった。できる限り自分でやったのも良かった。
今思えば本当にトラブルとは無縁な車だった。

f:id:jamboree18:20180828130138j:plain

*ちょっと前のめり

 

当時は他の車に乗ったことがなかったので、今になってその良さを実感することが多い。

例えば、ボディ。頑丈な二層の殻に守られている感じで、急ブレーキを踏むとボディが止まり、後からシートがついてくる感じ。
80キロ巡航の時が最も気持ちよくて、まさにクルージングしているようだった。

乗り心地は硬くもなく柔らかくも無く、絨毯の上を走っているような、不思議な感覚だった。


決して運転していて興奮するような車ではなかったので、眠くなることも多かった。

そんな時は、サンルーフ(がついていた)を開けて昼寝をしたりした。天気が良い日は本当に気持ちが良かった。


スペースも広く使え、後部座席は快適だったはず。
両側とも、パワーウィンドウが壊れていたので閉めきり窓だったけど。

本当に良いところばかりだったのだけど、唯一の難点が燃費。

5キロ/Lだった。
毎月1000キロ走る僕にとって、この燃費はかなりきつかった。
燃費のことを言うのはヤボな話かもしれないけど、僕にとっては切実な問題だった。
結婚、引越しと、環境が変わっていく中、W123の存在がちょっと重く感じ始めていた。

僕がちょっとした岐路に立っていて、何かと大変だった時期に寄り添っていてくれた車だったのだけど、物事が明るい方向へ向かい出した途端、この車がズシっとのしかかる感じがした。いつまでもこれに執着することの重みというか。

今思えば、とても身勝手な心変わりだったと思う。
「分身のようにかわいがっていた」と言われた車を、僕は手放してしまった。f:id:jamboree18:20180828130225j:plain

W123と僕 前編

初めてのブログ。

やっぱり車のことか。

初めての愛車は、僕と同い年のメルセデス・ベンツW123。
やっと見つけた憧れの車は、解体寸前に売りに出され、2年間も野ざらしになっていた。
塗装は粉が吹き、タイヤはぺしゃんこ。だけどエンジンはすこぶる元気だった。
手を入れるたび、応えてくれる車だった。
少しずつ以前の輝きを取り戻していく姿に感動しながら、運転やメンテナンスの楽しさを教わり、クルマが与えてくれる自由とは何かを知った。
一生の出会いや別れを共にしたのも、この車。どんな時も寄り添っていてくれる分身のような存在だった。

なのに、今思えば、かなり衝動的にW123を手放してしまったような気がする。そんな愛車に対する後ろめたさや未練をようやく克服しつつあるのか、しみじみとあの四角い車を思い出す。

<W123との出会い>
W123という車を知ったのは「人生はビギナーズ」という映画だった。
ユアン・マクレガー扮する草食系モヤモヤ男子が、前向きな気持ちを持つことで人生を前に進める映画だったのだが、これが当時の僕の気持ちに完全にフィットした。

彼の置かれた状況が自分と重なったこともあり、何度も映画を見ては自分を投影したものだった。

で、その主人公が乗っていたのがW123 300Dという車だった。

車などろくに知らなかった自分にとって、「こんなベンツがあったのか!」と衝撃的ですらあった。

f:id:jamboree18:20180827170519j:plain


僕のベンツに対するイメージは世間一般のそれと同じで、「オラオラ系」な印象しかなかったのだが、W123は少し丸みを帯びたフォルムと愛嬌のある丸目で優しさすら感じるデザインだった。

30年という時間によるヤレ感もあって、それはもう、むちゃくちゃオシャレに見えたものだった。

映画に自分を投影させるなんて、今考えると痛々しい以外の何ものでもないのだけど、僕はそんな動機で初めての愛車を持つこととなった。

 

ヤフオクで発見!>

車を買おう!
そう思い立ったとしても、これが新車だったり年式の浅い中古車だったりすればそんなに難しい話ではかもしれない(お金のことは別として・・・)。

W123は旧車と呼んでもよいくらい年季が入っている。
1976~1985年までの車だから、少なくとも30年は経っている。

結果的には初心者が持つ旧車としては、そんなに難易度が高くない車だっただが、そもそも良い車両を見つけるのが難しかった。現車を見ても何をチェックすれば良いのかもわからないし、分かっていたとしても、判断ができない。

僕がラッキーだったのは、そのようなアドバイスをしてくれるFさんという車のことなら何でも知っている方が身近にいたことだ。

僕のW123はFさんが見つけてきてくれた。
ヤフオク」で。
45万円。アイボリーの丸目。ユアン・マクレガーが乗っていたやつは北米使用なので、同じ丸目でも形が違うし、バンパーの大きさも違うけど、自分にとっては大した違いではなかった。
グレードは230。Eがつかないので、インジェクションではなくてキャブレーター。
ま、そんなことは当時はろくに分かっていなかったのだけど。

「とりあえず見に行ってみる?」というFさんのワゴンR(マニュアル)で、埼玉の久喜まで現車を確認しに行ってみた。

久喜まで道中、どれだけ気持ちが昂ぶっていたか。今でも思い出す。
あのW123を見れる。
しかもそれが自分の愛車になるかもしれない・・・!
前日はろくに眠れなかった。

思いの外に「郊外」であった久喜に下り立ち、指定された駐車場に着くと、既に出品者らしき人が待っていた。路肩には赤いアルファ147。どうやらその方の車らしい(まさかこの後に自分がアルファに乗ることになるとは)。

砂利のすき間から雑草がぼうぼうと生える駐車場にW123は「ずしっ」と鎮座していた。

これが夢にまでみたW123。

だが、

丸目2灯のヘッドライトは曇っており、アイボリーの塗装は粉がふいていた。
ちょっと汚れた手で触ったら、拭いても取れないほどにざらついていた。
ひび割れたタイヤは凹んでおり、もう何年も動いていないんじゃないかと感じさせるほどに朽ちていた。

f:id:jamboree18:20180827171044j:plain

*隣にルーテシアがいたんだね

 

それでもそこにあったのは、もしかしたら自分のものになるかもしれない憧れの車だった。

「とりあえず火をいれてみよう」とFさんがエンジンをかけた。
一発でかかり、耕運機のような音が鳴り始めた。

「ダダダダダダダダダ」と、ぶるぶる震えながらも、数分立つとアイドリングが安定してきた。

Fさんが電装、足廻り、ミッション、排気等の状態を確認してくれた結果、

「これは買いだよ。ボディは磨けばキレイになる」

この一言で入札が決定した。

価格は45万円。果たして落札できるのかと心配したものだった。

ちなみに帰り道、浮かれすぎていたのか蓮田PAで財布を無くしてしまった・・・。
(幸い発見された)

その日以来、毎日どころか一時間毎にヤフオクに出品されたW123を確認していた。

1年以上出品されているのに、そんな簡単に入札がつくわけがない。
それでも心配したし、オークション終了直前に入札をした。

そして落札。他の入札は無かった。
その夜も興奮して眠れなかった。

 

<W123がやってきた>
数日後、ドゥカティに乗ってやってきた出品者からキーを受け取り、再びFさんと久喜に向かった。

仮ナンバーを取り付け、ヒビだらけのタイヤに恐る恐る空気を入れ、いざ整備先の横浜に向かう。もちろん自走で。

ボディに粉がふいていても、車検を通すにはタイヤ交換だけで済んだ。

ちなみにこの写真は車検通過直後にFさんに撮ってもらったもの。

f:id:jamboree18:20180827171319j:plain

僕もついにクルマを持てた。

今後も何台かの車を買うかもしれないが、この時ほど感動することはないだろう。

さて、これからユアン・マクレガーよろしく、主人公になりきったカーライフを過ごすことになるか・・・といえば、そうでもなかった。